2016年07月

「なぜひきこもり支援者は学校図書館を支援の場にしたのか」 〜神奈川県立田奈高等学校 ぴっかり図書館の取組み〜

 ひきこもり支援を川の流れに例え、「川下の支援」と呼ぶことがある。「川上の支援」は、どんな若者も一時は所属する在学中の支援のことである。つまり川下が対処支援、川上は予防支援を指す。川を下るほど困難度が増し、支援はより困難なものとなっていく。よって早期発見・支援が求められている。

 孤独に傷ついた若者たちを川下で流れ着くのを待つ支援に疑問を感じ、私は川上を目指し平成21年に起業した。様々な理由で高校が最後の教育機会となる生徒たちの多い高校で、教育と雇用の接続支援を実現したいと考えていた。

 参考までに記すと、学校という所属を失い、川下の支援機関に流れ着くまでに10年かかり、この間に消すことのできない「社会的ブランク」や「履歴書の空白」が生じる。これが目には見えない足枷となり、若者たちの社会復帰を難しくする。支援機関にたどり着ける若者は極一部に過ぎないことも付け加えておく。

 しかし、学校の外から川上の支援の重要性を説いても、高校はそう簡単には部外者に門を開てはくれない。地域若者サポートステーション(厚労省)は、平成25〜26年度に学校連携事業に予算付けをした。しかし、思うような成果が上がらず予算を打ち切った。

 どんなに高い志を持っていても、容易に校内での支援はさせてもらえないのが現状だ。手前味噌になるが、私が全国から講演の依頼をいただけているのは、高校とパートナーシップを築けた稀有な外部支援者だからである。

 きっかけは内閣府のモデル事業「よこはまパーソナル・サポートサービス(PS)」だった。平成24年5月に、私はPSの相談員として神奈川県立田奈高等学校に派遣されることになった。このチャンスに成果を挙げ、まだ手つかずの川上の支援を広がることに貢献したいと強く思った。

 出張相談の準備を進める中、校内見学の機会を得た。私とぴっかり図書館との出会いだ。司書の松田ユリ子さんは不在だったが、雑誌の表紙コピーを廊下に掲示し、図書館に馴染みのない生徒を入館させようという工夫が印象的だった。
 陽当たりの良い図書館内にはソファーがあり、本のセレクトも、その展示方法も魅力的で、なんといっても私の好きな音楽雑誌『ロッキンオン』があったのが良かった。館内や司書室にはビートルズやストーンズ、レッド・ツェッペリンのポスターが貼ってあり、“なんかいい感じ”がした。

 その頃、某高校の相談事業があまりうまくいっていないという話が耳に入った。曰く、相談室に生徒が行きたがらず、入室するのを他の生徒に見られたくないとのことだった。

 この情報に私は危機感を抱いた。相談は相談室で行うということが当たり前過ぎて、私は何の疑いも持っていなかったのだ。この情報から、相談という行為が生徒にとっては暴力的なほど、羞恥心と劣等感を生むということに気がついた。

 このことに私たち支援者(大人)はもっと自覚的にならなければならなかったのだ。さて、それを自覚したところで、完全アウェイの地、県立高校で私に一体何ができるのだろう? 

 支援業界で仕事を始めた数年間、私はフリースペース(居場所)の担当だった。そこで知ったフリーの意味とは、予約なしに自由にやって来て、自由に帰ることができ、居たければいつまでも居られる。誰とも話さない自由や、参加しない自由が保障され、誰からも強要されないフリーだった。

 これはまさに図書館である。敢えて強調すると保健室ではなく図書館だ。図書館は本というメディアのある居場所であり、司書はメディアと利用者をつなぐことのプロフェッショナルだ。これは居場所における支援者の役割に似ている。

 図書館も居場所も、押し付けがましいサービスは嫌われる。私たちと司書は“待ち”のサービスを提供する仲間なのだと思う。利用者を放置しているようで気を配り、目が合えばすぐに席を立ち声を掛ける。これは司書の仕事そのものであり、私たち支援者も日常的にしていることである。

 相違点は、私たち支援者はメディアにつなげることではなく、メディアを通じて人と人、人と社会をつなげることが目的である点だ。だが司書の役割も俯瞰すれば、同じことを目指しているのだと思う。

 私の背景にあるフリースペースの経験が、ぴっかり図書館を見たときの“なんかいい感じ”とつながり、私に相談室ではない場所として図書館を選択させたのだと思う。

 私が図書館で(暇を装うという高度なテクニックで)のんびり本を読んでいて、生徒は気が向いたときにだけ声を掛けられる。相談というよりも雑談ができ、興が乗れば相談もできる。隣のテーブルにいる専門家、そんなスタイルを私は学校に提案した。

 このアイデアがイケてるという確信はなかった。しかし、少なくとも誰も来ない相談室で日がな一日生徒を待つよりもマシなアイデアだと思った。校長は、我が校に合ったいいアイデアだと言ったが、司書が許可しないとダメだとも言った。

 私のイメージの中のスクエアな司書はこう言っていた。「図書館がおしゃべり禁止なのはご存知ですよね?」と。私は諦めかけていた。しかしラッキーなことに松田さんは二つ返事でOKしてくれた。曰く、私も図書館のメディアのひとつだそうだ。 

 図書館での相談がぎこちなくはじまった。松田さんは、私というメディアと生徒をつなぐ努力を司書として惜しまずにしてくれた。少しずつ、私と生徒が打ち解けると、日常会話から相談に展開するということが狙い通りに起きるようになった。

 恋愛相談から進路の不安を話し、面接についての助言から、不安定な家族関係についての話しをはじめる生徒がいた。「あの話、しちゃおうかなぁ」と、もったいぶったりする生徒もいる。これらは生徒が私という大人を試しているのだと思う。この「お試し」が気楽にできることが図書館で相談を行う最大のメリットなのである。

 高校生がダサい格好をした大人を“わかってくれない大人”と見なすことを私は経験上理解していたので、ファッションにも多少気を遣った。ファッションに限らず、相談者である高校生が相談員をビジュアル=非言語情報で判断できることは、相談に対する不安を軽減する効果を生む。

 生徒が相談の見通しを立てる上でも非言語情報は重要な情報であるはずなのに、多くの場合、相談者は相談員を言語情報でしか知りえない。不安の強い若者ほど言語情報だけでは行動に移すことができないのに。だから、学校にアウトリーチした支援者が相談室にこもっていたのでは意味がないのだ。

 振り返ると、結局のところ私が趣味のロックを通じて松田さんと仲良しになり、日常的におしゃべりしているところを生徒が見聞きすることが、実は生徒たちに一番の安心感を与えたのではないかと思う。こうして私は毎週現れる変な大人というメディアとしてぴっかり図書館に定着した。

 私と生徒との結びつきに司書の存在は欠かせない。週に一度しかいない私に、毎日図書館にいる司書が課題を抱えた生徒をキャッチアップし、私への相談を促してくれる。

 前述した場の特性上、図書館には困難を抱えた生徒が来所しやすい。そして、評価者ではない司書に対して、生徒たちは無防備にガードを下げているのではないだろうか? 司書は必然的に“何か”を発見してしまう。或いは発見して欲しくて来ている生徒が現れる、それが図書館ではないだろうか。

 その“何か”は曖昧だったり複雑過ぎて、本人ですら語ることのできない漠然としたカタマリであることが多い。司書が相談するように促したくても、漠然とした不安に対応するハードルの低い相談窓口は校内にない。担任との折り合いが悪い生徒は更に選択肢が限られる。

 今日も、全国の学校司書は“ちょっと気になる生徒”を発見してしまっている。しかし、どこにもつなげてあげられずに生徒は学校からフェイドアウトしていく。アンテナの感度の高い司書の皆さんほど、司書の専門性では抱えることの出来ないカタマリに手を焼いているのではないだろうか?

 しかし、田奈高校のぴっかり図書館には、促すにはもってこいの大人が能天気にギターを弾いて歌なんか歌っていたりする。その人は若者支援の専門家であり、横浜市内に広い支援ネットワークを持っていたりする。私である。

 私は司書からのパスを受け、漠然とした不安のカタマリを丁寧に、時に乱雑に解きほぐし、明確な課題にしていく。その課題が校内で解決することが難しければ校外の社会資源につなげる。

 これらは「だったら石井さんに相談してみなよ」と、司書の松田さんが私というメディアに生徒をつなぐことで実現している。この相談がランチルームだった場合、私のパートナーは誰がなってくれたのだろうか?

 全国の学校図書館に、司書とセットでユースワーカーを配置してみたらどうだろう。おしゃべり禁止なんてつまらないルールは捨てて。


NPO法人パノラマ 代表理事 石井正宏

この文章は、図書館雑誌平成28年7月号に掲載されたものを加筆修正したものです。
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ともえちゃんのオープンマイクイベントやります!9月25日(日)@さくらWorks〈関内〉

ともえちゃん

ぼくが運営委員を務めている「ともえちゃん」という一風変わったイベントの告知をさせていただきます。ともえちゃんとは、とかく縦割りだと批判されがちな教育と雇用と福祉の垣根を、ぼくら現場から越えていきましょう!というオープンな会で、主に横浜・川崎エリアで活躍する方々が集まってます。

現在、「ともえちゃん」のイベントページからのお申し込みが残席15名となってます(定員50名)。毎回、FB以外からのお申込みが5~6名あるので、残すところは10名ちょっとかもしれません。ご興味ある方は迷わずお申し込みしちゃって下さい。教育・福祉・雇用セクションで働くワーカーや先生方との顔の見えるネットワークが一気に広がること間違いなしです。

先生に直接訊いてみたいこと。ケースワーカーに相談していたいこと。サポステや就労支援機関で働く支援者にぶつけてみたいアレコレをマイクに向かって語って下さい。

今回は、オープンマイクという新企画で、事前にエントリーしていただいた皆さんに、自由に自分の身の回りの社会課題について、その解決策や、不足している社会資源や人的資源についてプレゼンテーションしてもらい、不足部分を埋める議論を会場を巻き込んでやってみたいと思っています。

また、今回の会場は「さくらWORKS〈関内〉」のイベントスペースで行ない、そのままケータリングを頼んで、懇親会という展開で調整を進めています。 社会貢献DJが参加していますので、Good Musicに酔い痴れることもできますよ。是非、ご参加下さい。会場でお会いできることを楽しみにしています。

日時:9月25日(日)開場13:30 開演14:00 終了17:00
場所:さくらWorks《関内》
費用:500円
懇親会:あり(さくらWorksでそのままやります)
申し込み:FBイベントページまたは、3tomoechan@gmail.com まで。

NPO法人パノラマより 【カレーの食材を寄付ご協力のお願い】

カレパ

今年も、ぴっかりカフェのスペシャル企画として、「夏休みカレーパーティー」を開催致します!

毎週木曜日に開催しているぴっかりカフェですが、実は16時の閉店で生徒をスムーズに図書館から帰ってもらうのがけっこう大変で、「蛍の光(ナレーション入り)」を流して、帰宅を促したりしています。なかには「帰りたくない」と、はっきり言う生徒もいて、学校の外に居場所があんまりないんだなと感じることがあります。

きっと、夏休みにどこにも行けず退屈している生徒や、ひょっとしたら家の中にも居場所がない生徒もいるだろうと想像されますので、夏休みにも居場所を提供し、せっかくなのでみんなで美味しいカレーを作って食べようと「ぴっかりカフェのカレーパーティー」を企画したのが去年の夏です。

校長先生をはじめ、毎月最終週にコラボレーションしているNPO法人スペースナナさんにご協力をお願いし、生徒たちと一緒に美味しいカレーを作ることができました。60名近い参加者がいたように記憶しています。

感想文には「楽しかった」や「美味しかった」というものの中に、「こんなにちゃんとしたカレーを食べたのは初めてです」というものもありました。去年参加している生徒たちは「絶対来る!」と今から盛り上がっています。

そこで、毎回のことで大変恐縮ですが、皆さまに食材のご寄付の協力をお願いしたいと思っています。畑で採れ過ぎたとか、もらったんだけど食べきれない物等、あれば、前日(7月20日)までに田奈高校までお送り下さい。尚、食材寄付者の方で学校にいらっしゃれる方は、是非、生徒が作ったカレーを一緒に食べて下さると嬉しいです!

《お問い合わせ》
NPO法人パノラマ
npo.panorama@gmail.com

《寄付の送り先》
〒227-0034 神奈川県横浜市青葉区桂台2丁目39−2
神奈川県立田奈高等学校 松田ユリ子
電話:045-962-3135

以下の食材を希望していますが、サラダも作りたいですし、カレーなのでなんでもありがたいです。
• なす
• トマト(or トマト缶)
• タマネギ
• かぼちゃ
• エリンギ
• 人参
• ピーマン
• ニンニク
• しょうが
• スイカ
• ズッキーニ
• カレールー(銘柄及び辛さなんでも)
• 福神漬け
• お米
• ジャガイモ

開催日は7月21日(木)です。誠に勝手なお願いを重ねますが、できる限り直前の20日着で送っていただけますと、大変ありがたいです。どうぞよろしくお願いいたします!
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